訴訟による回収は一割以下~勝訴=回収ではない~

訴訟による回収は一割以下~勝訴=回収ではない~



訴訟による回収が成功しない三つの要因

最後の手段として法的手段を検討する債権者は多い。果たして、どれくらいの確率で訴訟による回収が成功するのだろうか。適切な統計は探すことができなかったが、感覚的には 1 割にも満たないのではないだろうか。訴訟による回収が成功しない理由は、大きく分けて三つある。

 

①勝訴=回収ではない

訴訟経験のない企業では、裁判に勝てば回収したのも同然と、勘違いしている企業が多い。訴訟が日常茶飯事の欧米社会と違って、日本企業は訴訟に慣れていない。日本人は、生涯一度たりとも弁護士や裁判所の世話にならずに過ごす人が大半だ。
まず、裁判の結果、債権者が勝訴をしても、敗訴した債務者が控訴する可能性がある。三審制であれば、最高裁まで争うことができる。債務者が控訴せずに判決が確定しても、債務者が自主的に 支払うとは限らない。強制執行をするにしても、大前提として債務者に執行する資産がなくてはならない。
法的手段に訴える前に債務者の資産調査を行うことが不可欠である。これを行わないと、勝訴はしたが債務者に強制執行できる資産がなく、裁判費用と弁護士費用だけ損したということになりかねない。よくある話である。調査には通常1-2ヶ月ほどかかるので、法的手段を視野に入れた段階で調査を開始すべきである。さらに言えば、これはあくまで勝訴した後の話であって、敗訴することもある。とくに債務者からクレームが出ている場合、品質に関わる場合で、米国のように陪審制をとっている国では 、債務者側に腕の良い弁護士が付くと債権者が敗訴することもある。あるいは、発展途上国など保護主義の強い国も、現地の企業が勝ちやすいという訴訟リスクがある。

 

②タイミングの問題

これは意思決定の遅い日本企業に共通の失敗である。現地の弁護士に直接依頼しても、必要資料の提出、現地語への翻訳などlヶ月以上かかることはザラにある。ましてや債権者側の書類管理がずさんで必要な書類を整備するのに時間がかかる場合も珍しくない。
すべての書類が整い裁判所に提出し、訴状が債務者に送達される頃には、債務者はすでに倒産していた。笑えないが実際にあることだ。

 

③個人からの回収はできない

日本では中小企業に対する融資やリースの条件として、代表者の個人資産の担保提供や連帯保証を要求されることが多い。 日本の銀行のほとんどは、担保至上主義から抜け出せないのが現状だ。先日もある大手銀行の融資担当者と話していたら、現在も融資先の審査と称しては、登記簿を取得して担保価値を調べる毎日だと言っていた。また、代表者もこれを当たり前として受け入れる土壌があり、経営者として個人資産を担保に出せば経営者として初めて一人前などと言われる。
また、日本では、マスコミやドラマのせいか、社会通念的に株式会社や倒産に関する大きな誤解が存在するようである。株式会社の代表者は無限の責任を有していて、会社が倒産した場合は必ず私財を提供しなくてはならないと勘違いしている人が多い。これは大きな間違いである。
私財を提供するのは代表者が銀行からの借り入れに個人で連帯保証をしているからなのだ。この事実が忘れ去られ、会社の倒産=代表者の私財提供という図式ができてしまった。要は日本では代表者の連帯保証は前提条件なのである。
しかし 、これはあくまで 日本の常識であって、世界では非常識なのだ。欧米では、銀行が企業に融資する場合も、企業の事業性そのものを審査して融資するノンリコース型の融貸や無担保融資が多い。ノンリコースローンや無担保融資のリスクの見返りとして、利率を高く設定し収益を上げている仕組みだ。仮 に、担保を取る場合でも現金化に時間のかかる不動産よりも、現金性の高い売 掛金や棚卸資産が担保の主流である。
つまり、破たんした企業の資産がない場合、代表者が裕福であることと強制執行に供する資産があるかどうかは全く別物なのである。第一に、個人の資産を提供させるには代表者の連帯保証が必要である。これがなければ話にならない。
連帯保証もないのに代表者の個人資産を売却して債権を回収できるものと勘違いしている担当者が実に多い。国により法律が異なるので一概には言えないが、連帯保証なしで個人の資産を提供させるには、代表者としての責任を問う民事訴訟か、詐欺などの刑事訴訟を起こす必要がある。
したがって、海外の企業と取引する際には、代表者の個人財産ではなく、企業としての与信リスクを十分に分析する必要がある。また、万が一取引先の代表者が連帯保証に同意し連帯保証を取得する場合にも、連帯保証の文面には注意が必要だ。取引先の国の法律に長けた弁護士に相談することが必須である。

 

※出典:「海外取引の与信管理と債権回収」(牧野和彦著、税務経理協会刊)


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